出だしで躓く

出だし以外は躓かない

宝箱をなくした私たちは

この話は以前どこかで書いた気がするのだが、忘れたくないのでもう一度書いておく。

 

  2年ほど前、「妄想の方がマシだな」と思ったことがある。それまでは、どんな時も現実の方が優れていると信じていたし、頭の中でしか叶わない願いがあるのは不幸なことだと思っていた。しかし、そうではなかった。いらないと思うような現実がこの世にはあるのだ。

  妄想というよりは期待というべきかもしれない。これは絶対においしいはずだ、と思って食べたケーキが口に合わなかった時、そのケーキを買わなかった方が幸せだったはずだ。そしてそれは、おいしいはずだ、と期待した時点である程度の幸福が得られるということである。つまり、実際にケーキを食べるという現実が無くとも幸福感は得られる。なのに、私はしばしばケーキを手に入れることに執着してしまう。

  このケーキは真っ白な生クリームに覆われている、イチゴがたくさん乗っている、あのケーキと同じだ、あのケーキと同じようにおいしいはずだ、という期待ができる時点で経験が土台として出来上がっており、それ自体が幸せなことだ。頭の中で、あの時と同じ幸福を生み出したのとほぼ同じだ。参照できる経験があることにもっと感謝すべきだ。ケーキが食べられない不幸を嘆くのではなく、何度でも思い出せる幸せを噛みしめる。そうやって生きていきたい。